今日も魔族の攻撃を受けた。エレシュランタで生きていくことは、日々血なまぐさい戦闘の連続だ。つかの間の死と復活を繰り返し終わりなしに体験していると懐疑的になるはずだ。
「いったいなぜ魔族との戦いを続けなければならないのか?」
「いっそ死ぬことができる人間のほうが幸せなのではないか?」
その問いの答は、すでにずいぶん前にテンペルで教わった。 半分に折れたアイオン塔の影響で、結界が緩くなってオードが止まることなく消耗しているから、魔界に残ったアイオン塔を壊してこそ天界が存続されると。 だが、戦闘の渦に巻き込まれると最終的な目的は忘れ去られるはずだ。目の前の勝利と今占領している要塞を守ることで精一杯だからだ。
根深い魔族に対する本能的な拒否感のせいで、彼らをはね除けようとする人もいるだろう。鉤のような手足の爪、黒いウイング、背中に生えているたてがみ。 彼らの姿は当初アイオンが創造した人間とディーヴァの姿ではない。そのため、私たちが選ばれし者で彼らは呪われたと話す者らもいる。
肉体的な死を迎えないディーヴァにとって戦争は残酷なのだ。キベリスクでまた目覚めてひどい苦痛を味わうごとに、ディーヴァの魂は傷つき、信念は揺らぐ。傷つき傷つけられる戦闘で徐々に挫折し、惰性に陥っていく。 ディーヴァたちに必要なことは美辞麗句で装ったそれらしい大義名分ではない。 生命を捧げるほどの真の目的がなければならない。
終わりなき戦闘に疲れて挫折を経験した先輩として、私エウテルは忠告する。真の目的が何かは自らが探さなければならないと。これまでの歳月を辿れば、龍族を挑発して大崩壊を起こした魔族に五柱神の名において最後の罰を下し、天族がアトレイアの唯一の主にならなければならないということを悟るようになるだろうと。
数千年前に全知全能のアイオンがアトレイアを創造された。暖かくて軟らかい光に満ちた豊かで美しい世界が、アイオンが私たちにくれたアトレイアであった。 二つに分かれた今とは違ってどんな欠陥もなく、完全ですべての生命が調和しているところがまさにアトレイアであった。
当時アトレイアで生きていたのは人間だけではなかった。龍族と亜人種もアトレイアで共に生きていた。そして、認めたくない事実だが、最も強い力を持っていたのは龍族だった。だが、人間は彼らと決定的に違う点があった。それはまさにアイオンに対する信頼だった。
アイオンの光の中で生活しながら、人間は絶対的な信頼を捧げた。龍族と亜人種が生きることだけに関心を傾ける間、人間は神殿を建て賛美の歌を捧げて、アイオンが導くとおりに生きていこうとした。ベルテロンにあるズミオン神殿を含めた数多くの遺跡が、今でもその証拠としてアトレイアのいたるところに残っている。
龍族のドラカンは当初から無慈悲で血と権力に飢えていた。優れた身体能力を武器に人間と亜人種を抑圧していたが、それだけでは権力に対する貪欲な喉の渇きは癒えなかった。彼らは同族間でも権力のために争い、龍族の支配者になるためにお互いがお互いを踏みにじった。
支配者になるためにドラカンが選択したのは、肉体と精神の能力を極限まで引き上げることだった。さらに優れた力、さらに優れた知的能力を持てば同族の上に立つことができると信じたためだ。その結果、いくつかのドラカンが覚醒し始め、続けてさらに多くのドラカンがドラゴンへと新生した。
ドラゴンとドラカンは完全に別のものであった。ウイングが生えて巨大になった外見は以前とまったく違い、能力は想像だにしない変化を遂げた。 特に、ドラゴンの中でも卓越した能力で他のドラゴンたちを制圧して龍帝の座についた五匹のドラゴンは不可能なことがないように見えるほどであった。
途方もない能力と権力を持つようになったが、権力と力に対する龍帝の渇望は少しも弱まらなかった。ついに彼らはアイオンの力を狙い始めた。 アイオンの永遠の力を吸収して、アトレイアに完璧に君臨しようとする野心を持つようになったのだ。
アイオンを破壊しようとした龍族に反旗を翻したりしたが、人間は何の力もなかった。 ドラカンの鋭い爪の前で悲鳴を上げる間もなく死んでいき、龍帝の残忍で悪辣な魔法の前では、村や都市が火の海に変わることは不思議ではないことだった。
だが、アイオンは人間を見捨てなかった。自分の代わりとして龍帝と戦う戦士の十二柱神を送って龍族が侵入できない結界幕を張り、人間と自らを守られた。結界内での人間は安全だったが、それでも戦争自体を避けることはできなかった。
龍族に対抗するために、十二柱神は人間を祝福した。祝福を受けた人間にはウイングが生え、結界内にあふれるオードの力を自由自在に使いながらドラカンと戦うことができた。十二柱神は祝福を受けた人間をディーヴァと呼び、体系的に訓練させて組織的な軍隊につくりあげた。
人間たちが結界内でアイオンと十二柱神を崇めながら自分たちの人生を生きる間、ディーヴァたちは神のそばで龍族と対抗した。ディーヴァは老いることも死ぬこともなかったので、彼らの肩の荷は決して下ろされることはなかった。龍族が完全に消える日がディーヴァが自分の人生を探すことができる日であったが、龍族の数はあまりにも多く、龍帝の能力はあまりにも優れていたから、その望みは決して実現されないことのように思えた。
千年という長い歳月が流れたが、戦争の様相は少しも変わらなかった。人間は相変らず結界の内でだけで安全だったし、龍族は相変らずアイオンを破壊してその力を奪うという欲望をあきらめなかった。そして、幾人かの神はこの戦争を終わらせる新しい方法が必要だと考えるようになった。
イズラフェル神は、千年経っても勝敗がつかないならば次の千年が過ぎても戦争は終わらないと考えた。老いもなく死なないディーヴァにも消滅の危険はあったので、その間の犠牲はあまりにも大きかったのだ。すべての人間とディーヴァのために彼が下した決断は龍族との和平だった。
龍帝を憎悪するイズラフェル神の口から和平という話が出た瞬間について、歴史は詳しく記録している。他の十一柱神の顔に驚きと動揺の色が浮かび、次の瞬間にはアスフェル神の怒鳴り声が鳴り響いた。
「あなたは正気なのか? どうすれば龍族と和平をしようなどということを口にできるのか! 龍族を滅亡させるために千年の間命を捧げたディーヴァたちの魂が私たちを見守っているのに、どうすればアイオンの神聖さを否定する異端の集団と共に生きていこうと言えるのだ?」
だがイズラフェル神はアスフェル神の非難に少しも動じなかった。
「戦争を始めた当初の原因が何だったかを考えてみよ! 戦争の目的は龍族の滅亡ではなくアイオンを守ることだった。さらに千年も戦争をしてすべてのディーヴァが死に、アイオン周辺に人間もディーヴァも1人もいなくなって、それで満足なのか?」
イズラフェル神のこの言葉はシエル神の心を動かした。十二柱神のリーダーである二人の塔の守護者が和平を決めたなら、他の神々は従うしかなかった。 人間たちは果たして龍族との和平が可能なのかと疑いを持ちながらも、長い戦争が終わって平和が訪れるかもしれないという希望を少しずつ持ち始めた。
待っていた和平の日が来た。すでに何日か前にすべての準備は終わっていた。 龍族が和平場所まで近づくと、神々とイズラフェルは龍族が入れるように結界幕を解除した。 五龍帝は、約束のとおりに何の武装もしないで来た。
すべての手続きが滞りなく進行していた。だが、暗い影はすでに色濃く落ちていた。龍族との和平は恥辱だと主張しているアスフェル神と同調者たちは企みを持っていたのだ。アスフェル神がいち早く動くと、龍帝の中でベリトラが倒れた。 それと同時に大混乱に陥った。
龍帝の首長のフレギオンが怒号をあげながら、両腕を広げた。両目が見えなくなりそうなほどの光が放たれ、とてつもない轟音が聞こえてきた。 次の瞬間、信じられないことにアイオン塔にひびが入って、徐々に二つに裂け始めた。ミスランテイダとエレスギガルをはじめとする他の龍帝たちは十二柱神とディーヴァたちを無差別に攻撃していた。
だが、龍帝の攻撃も少しの間であった。 アイオン塔が完全に真っ二つになると地面が割れ、オードの流れは恐ろしいほどの渦をつくっていた。その混乱の中、シエル神とイズラフェル神は最後の力を振り絞り、再び結界を張った。 そして、そこにいた神々とディーヴァたちをアトレイアの南と北の安全なところに移動させた。
後日知ったのだが、アトレイアの南側の人間とディーヴァたちは北側の者たちより運が良かった。アイオンの光は弱くなってはいても、アトレイア外部から入る光のおかげで以前と似た環境を維持することができた。だが、大崩壊の余波でほとんどが破壊され、都市全体がまるごと消滅したところさえあった。
人間とディーヴァたちは混沌に陥っていたが、アリエル神は他の四柱神と力を合わせて、アトレイアの以前の姿を取り戻すように人々を促した。時とともに、村と都市は整備されていき、新しい環境に適合する作物も見つけ出した。あの痛みを完全に忘れることはできなかったが、人々は大崩壊の悲劇から徐々に抜け出していった。
私はこの時期に生まれた。大崩壊直後、全てのものを一から建設した時期に。私にとっては神と言えば五柱神であったし、アイオン塔は光を失っていた。アイオンが完全でアトレイアが一つであった姿を見たこともないから、私にはそのような時代は神話や伝説のように感じられる。
だが、自分にもこの目でしかと見た胸を打つ出来事がある。 アトレイアのすべての所が安定すると、アリエル神は神々の新しい居となる首都を建てなさいと命じられた。すべての工事が終わった時、多くの人が集まった。 そしてアリエル神を含めた五柱神が現れた。アリエル神はエリュシオンを建てるのに貢献した人間とディーヴァたちの労をねぎらった。 そして、今この瞬間が新しいアトレイアの始まりとなる歴史的な瞬間だと宣言した。アリエル神と他の神々たちが両腕を高く上げると、エリュシオンは徐々に浮かび上がり始めた。ついに空高いところまで至ると、エリュシオンは澄んだオーラに囲まれて美しく光を放った。
アビスを発見した当初はアイオンの摂理を賛美した。 オードと資源が豊富な空間を与えてくれたと考えたからだ。 だが、今の私にはアビスは大きな呪いのように感じられる。
塔の破片を介して新しい世界を探査し始めた時は、全てのものが魅力的だった。 探査して行方不明になったディーヴァたちも多かったが、どんな所を探険してもある程度の犠牲はあることだと考えていた。 デルトラスとストーム レギオン事件が起きる前までは。
ストーム レギオンの生存者が伝えた転末はこうだ。アビスを介して見慣れない場所へ行くことになったのだが、そこはまさに過去にアトレイアの北側だったところだった。そこは暗くて不毛なところに変わっていて、人々の姿も奇妙に変わっていた。デルトラスはどうにか本来の世界に戻ろうと努め、意外にもジケル神と出会うことになった。ジケル神はネザカン神を呪えば送りかえしてやると言ったが、デルトラスはジケル神を呪い、天族としての自尊心を守って死を迎えた。多くの部下たちはデルトラスとともに死を迎え、一部はかろうじて逃げた。だが、天界に戻ってきた者はごく少数であった。
アビスの彼方にアトレイアの半分があるということも驚くことだったが、じきに明らかになった事実はそれを凌ぐはるかに大きなショックを与えた。バイゼル神はアビスの探査に一生を捧げたアーティファクトの守護者に会って、アビスの秘密について知るようになった。アビスはアイオンの残った彫刻がオードを異常共鳴させて作られた違う次元の空間で、オードを急速に消耗させているということを。そして、どちらか一方のアイオン塔を完全に破壊しなければアトレイアは完全に滅びてしまうという事実を。
アトレイアの北と南は、もう相手を退治しなければ自分の身が危ない状況に置かれた。その昔、十二柱神が龍族に対抗するためにディーヴァを教育したように、天族と魔族はお互いを倒すためにテンペルでディーヴァを育成している。
天族と魔族は大崩壊の原因をお互いに擦り付け合い、自分がアトレイアの真の主だと叫んでいる。
しかし、天族と魔族、龍族が絡まりあう戦場でどちらの側も勝機を見出せない拮抗状態のまま混戦し続けている。 生存と怨恨が絡まりあう戦場で果たしてあなたはどちら側に立つのだろうか。
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