ケレニス。
水の女神エヴァの娘。
己の望みをかなえる全てを持って生まれたかのごとき女。
優しい気遣いと見せかけ、気付かぬうちに罠にはめる。
そして、美しくも悲しい涙を流しながら、私の肝臓を取って食う。そんな女。
蛇の気を受けて生まれた為、一年に一度脱皮する。その抜け殻でいたずらをしつつ、好奇心に満ちた目つきで葦の陰から眺める。そんな女。
「これってできる?」ヒールをかけながら、低い声で詠唱すると、その言葉に反応するかのように水玉模様の蛇の鋭い尻尾が私のふくらはぎをかすめ、傷を負わせる。
「どうしよ…」傷を見た瞬間、彼女の詠唱は小さな両手に遮られた。
そして、私の体中の血管から血のしずくが垂れた。その瞬間に感じた甘くも生臭い血の臭い、静寂を破る息遣い。ヒールで傷が癒されるや、小さな嘆きの声が聞こえた。
奥ゆかしさも、心苦しさも知らないのだろうか。あるいは、私の好みが独特だと考えているのだろうか。
ケレニス、君はなんで私のそばでそわそわしているんだ。私の血を分けてやろうか。私がこんなことを考えるとは…水の精霊であるお前に惑わされているのだろうか…