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外伝最終話「旅立つ二人連れ」 外伝最終話「旅立つ二人連れ」 編集

一連の、ケンラウヘルとその一派によるアデンへの攻撃。

 

アデンの民が団結してその攻撃を退け、

再び平穏な日々が訪れてからしばらくたって後。

 

「話せる島」への港で知られるグルーディンの町の北、

慰霊碑が立つ場所に一人の魔術師が訪れた。

「ニドラフ」とも「ニドラー」とも、多くの名を持つ魔術師。

 

「勇気」と「覚悟」。そして「決戦」。

これら三つの言葉をもって語られる今回の出来事の、

これは最終章となる話である。

 

三度目の平和を得て。

三度目の平和を得て。 編集

陸の西、アデン王国グルーディオ地方。ここに、「グルーディン」という名の町がある。
人々が憩い、楽しむ施設が多く設置され、終日にぎやかな音楽が止む事のない、明るい町だ。
栄達を夢見る冒険者たちが、その訓練場である「話せる島」を旅立ち、最初に到着する町でもある。
古参の冒険者の中には、アデンの数ある町の中でも、ここを最も印象深いとして語る者も多い。

 

そうした、多くの冒険者と関わりを持つこの町は、アデンに住む人々にとって衝撃的な事件の舞台となった

過去を持つ。
大陸の地下深くに住まうダークエルフ勢力「ラスタバド」の襲撃を受け、多くの住人の命が奪われ、町じゅうを根こそぎ破壊された事があるのだ。
ラスタバドをそそのかしたのは、アデンに圧政を敷き、結果放逐された「反王」ケンラウヘルその人であることが、後日の調査で
判明している。

 

グルーディン襲撃後、ラスタバドの勢力はアデン全域に攻撃を仕掛けた。闇夜に紛れるダークエルフには、

熟練の冒険者も苦戦するほどだった。
しかし、アデンの人々はあきらめず、戦い抜いた。自身の土地からダークエルフを撃退し、逆撃を加え、

前線基地「ディアド要塞」を陥落させ、やがてはダークエルフの本拠地ラスタバドすら占領するに至った。

 

そうしてアデンの脅威が払われた後、グルーディンは復興を遂げた。ラスタバド襲撃から数年の月日を経ての事である。

 

そのグルーディンが、再び襲撃を受けた事はアデンの人々の記憶に新しい。
反王に仕える騎士"カーツ"、ラスタバドの重鎮"暗殺軍王"、魔族の幹部"堕落"に率いられた、「反アデン勢力」とも呼ぶべき集団に
よる
攻撃だった。
攻撃は苛烈を極めたが、高名な君主「デポロジュー」に平時でも戦う覚悟を持つよう呼びかけられていたアデンの人々は粘り強く
戦い、
襲撃を退けた。

 

その後に続いた、反王自身が率いる軍団との決戦にもアデンの人々は勝利を収め、王国は何度目かの平和の時を迎えていた。

慰霊碑を訪れる魔術師の姿。

慰霊碑を訪れる魔術師の姿。 編集

ルーディンの町の北、町境を出てしばらく歩いた場所に、大きな慰霊碑が建っている。
ラスタバド勢力による襲撃の際に命を落とした人々の魂を安んじるものだが、夜になると、救われぬ魂がさ迷うと言われる。

 

その慰霊碑の前に、一人の人影があった。ローブをまとった、魔術師を思わせる風体の男。
「ニドラフ」とも「ニドラ」とも呼ばれる、アデンではそこそこ名の知れた人物だ。
彼が、デポロジューに平時でも戦う覚悟を持つよう説いたことを知る者は少ない。
ニドラフの隠された真の名を知るデポロジューは、彼の言に従いアデン全土にそれを呼びかけたのだった。

 

ニドラフはその他にも、平和を守るためだと、アデンの人々、特に冒険者たちに数々の"訓練"を施した。
"訓練"は時に度を越えて厳しい事もあったが、人々は確実に鍛えられ、反王の攻撃を退ける力を身に着けて
いった。

 

結果、アデンの平和は守られたのだった。

 

ニドラフは慰霊碑の前に花を献じた。祈るように目を閉じ、そっと呟く。
「ゴラよ・・・」

 

"ゴラ"。ニドラフが呼びかけたそれは、あるオークの名前だ。
そのオークは以前、現在は慰霊碑が建つこの場所で、スライムを競争させてその順位を当てる「スライムレース」の経営をしていたが、ラスタバドの襲撃の際に行方不明となっていた。

 

ニドラフは言葉を続けた。
「グルーディンは、アデンは守られたぞ。これで良いのだな。」

 

二度目のグルーディン襲撃に際して、ニドラフは反アデン勢力の偵察と思われるダークエルフと接触していた。
攻撃を予感した彼は即座にデポロジューへと連絡を取り、襲撃が予想される日時の割り出しに一役を買った。
大きな被害もなくグルーディンへの襲撃を退ける事が出来たのは、ニドラフによる通報の占める割合が大きい。

 

「お前のおかげだ、ゴラよ。あの時、お前が私にダークエルフを気づかせてくれたのだろう・・・?」
ニドラフはそう信じていた。たまたま、ゴラの思い出に浸りながら街道を歩いていた時に、偵察のダークエルフに気づいたからだ。
ダークエルフは隠密行動に優れる。しかもその偵察者は師団長以上の手練れだったと、ニドラフは思っている。

あるいは暗殺軍王その人だったかもしれない。
如何にニドラフが経験豊富な魔術師であるとは言え、そのダークエルフの存在に気づけたのは奇跡的であるとすら言えた。

 

「ありがとう。お前のおかげで、町の人々は救われた。お前のような思いをする者は誰もいなかったのだ。本当に、ありがとう。」
目の前の慰霊碑にゴラの姿を重ね合わせ、ニドラフは感謝の言葉を重ね続ける。
普段、超然とした態度をとる事の多い彼が、本心を見せる事は少ない。だが、今の彼のが発する言葉には、
真心のこもった響きがあった。

旅立つ"二人連れ"

旅立つ"二人連れ" 編集

のニドラフのそばに、いつの間に近づいてきていたのだろう、一匹のスライムが寄り添うように現れていた。
高い実力を持つ魔術師である彼にとって、スライムなど注目にも値しない生き物だ。もちろん、ニドラフは気にする風を見せない。
だが、そのスライムは少し様子がおかしかった。寄り添ったニドラフのそばから動かず、液体質の体を震わせている。

 

わずかに、ニドラフはそのスライムに興味を覚えた。視線を自らの足元に落とす。
ふと、彼の中で思い立つものがあった。
一度視線を外し、今度は打って変わって、真剣なまなざしをスライムに向ける。
そして魔法の言霊をつむぐように、密やかに、ささやくように、その口から言葉がもれ始めた。

 

「・・・レット・・・」
「・・・ティン・・・」
言葉の節々に十分な間を置き、じっとスライムを見つめる。そのスライムに変化はない。

 

「・・・エルヴ・・・」
「・・・ルコン・・・」
「・・・トニン・・・」
スライムに変化はない。だが、その場から去ろうとする気配も見せない。

 

「・・・・・」
ニドラフのささやきが止まった。軽く息を吐き、深く息を吸う。一種、何かの覚悟さえ感じさせる表情になり、一言、つぶやいた。

 

「・・・サイハ!」

 

「!」
瞬間、スライムに変化が現れた。液体質の全身をうねうねと震わせ、その体の一部が空に向けて伸びあがったのだ。
それはあたかも、名前を呼ばれて挙手したかの様に見えた。そして、ニドラフはその光景に見覚えがあった。

 

(ブレット、シューティングスター、エルヴンアロー、ファルコン、ライトニング。どうだ、かっこいい名前だろう!?)
(さあ、先生。始まるぜ。俺の夢の第一歩、『スライムレース』がよ!)
(お、新顔のスライムが来たぜ。よし、お前もレースに参加させてやる。名前は、そうだな、うーん『サイハ』でどうだ?)

 

ニドラフの全身を戦慄が支配した。
「そうか・・・!やはり、そうなのか・・・!お前は、お前は・・・・!」
ニドラフの目が大きく見開かれ、一筋、二筋と涙が流れた。もれそうになった嗚咽をこらえる。
それは、付き合いの長いデポロジューでさえ見た事がないであろう、彼の泣き姿だった。

 

やがて、ニドラフの流れる涙は止まり、肩の震えが収まった。その表情は、涙の痕跡を除けば、晴れやかだった。

 

「ではさらばだ。ゴラよ。また会う日がある事をアインハザードに祈ろう。」
慰霊碑にそう声をかけ、今度は足元のスライムに視線を向けた。優しい、慈しむようなまなざしだった。
「行こう、サイハ。お前が、私と共に歩きたい限りで。」
ニドラフの言葉に応えるように、スライムが一度だけその体を震わせた。

 

ニドラフが歩き出す。その歩みにスライムはついて行く。
一人と一体。奇妙な"二人連れ"は慰霊碑を離れ、街道へとその姿を消していった。

 


「勇気を奮い起こせ!~決戦再び~ 」おわり。