嫌な予感が的中してしまいました。 傲慢の塔、そのほど浅い階層にいるモンスターの一部が、塔から逃げ出してしまったのです!
その事実を私が知るのとほぼ同時に、タラス様からのメッセージが届きました。
傲慢の塔に張られている結界の、魔力の流れに細工がなされている、との調査結果でした。 先日書いた「あやとり」に例えて言えば、"糸"が細工によっておかしな場所にかけられ、 私達が望むのとは違う形に編みあがってしまっている、という事です。
おおざっぱに言うと、魔力の"糸"が太くされ、その分、目が粗くなっているのだそうです。 他にも、結界の形自体に細工が行われているようです。 先日からの異変は、全てこの事が原因だったのです。 魔力の"糸"が太くなった結果、一部のモンスターは、混乱して元気をなくし、 "糸"の目が粗くなった結果、強力なモンスターは特定階層から抜け出すことができ、 地上に近い階層のモンスターは結界自体をすり抜けることができたのです。 私は結界の維持を他のウィザード達に任せ、急ぎ象牙の塔へ一旦帰還し、タラス様に直接の指示を仰ぎました。
タラス様はこう仰いました。
「『事ある度』の気もするが、今回も例には漏れぬ」 怪物退治は我らの業ではない。アデンの冒険者の出番だろう。」
「アフレック。お前はしばし傲慢の塔を離れ、冒険者へ告知し、協力を仰ぐのだ」 「その間に、結界の方は私が新たな術式を作っておく。」 そう指示を受け、タラス様の前を退出しようと背を向けた時、タラス様が小さくつぶやかれました。
「まったく、あの男は・・・」
私の事ではなさそうだったので、聞き返すのはやめておきました。
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